- ①「乗り込み」、「腰をのせる」、の正体は【伸張反射を利用して走る】ということ。
- ②伸張反射とは?
- ③どこの筋肉を伸張反射させるのか?
- ④乗り込みの仕組み
- ⑤まとめ
練習中にこのようなアドバイスを受けたことはありませんか?
「もっと乗り込んで行こう」「もっと腰を乗せて腰から進んでいこう」「もっと地面を押せるといいね」
陸上競技を続けられてきた方にはこのようなアドバイスを受けてきた方もいるのではないでしょうか。
私もこのアドバイスをよく受けていました。私は脚が遅かったので特に言われることが多かったと思います。
そしてそのアドバイスを受けるたびに思っていたことがあります。
乗り込み?腰を乗せる?それって結局何をどうしろというアドバイスなの???というかアドバイスになってなくない??何もわからんのだけど???
乗り込みとか色々アドバイスは受けるのだけれども、結局何をすれば乗り込めるのか?腰が乗るのか?押し込めるのか?何も理解できませんでした。
「乗り込み」、「腰を乗せる」、の部分をノウハウとしてコーチングしてくれる人というのはほとんどいないように感じます(一般的な指導者のレベルです。日本代表チームの指導者などについては全くわかりません)。多くの場合、伸張反射を利用する走りという根本の部分はブラックボックスになっており解明できていない方は多く、その他の細かい技術や体の作り方、ランメニューの組み付けだけを指導しているコーチがほとんどです。
「乗り込み、腰を乗せる」がもともとできる選手というのが一定数おり、そのような選手が自然と記録が伸びていきます。そして肉付けを行うトレーニングを教える指導者がつくことで一流選手に成長していくという構図があります。
逆に、乗り込み等を利用した走りができない人を教えてくれる指導者はいないというのが日本の陸上指導方針の基本的な構造だと感じています。
一方で、この伸張反射を利用した走りの指導を徹底的に行っている人たちもいます。
ジャマイカ/アメリカのチームは特に伸張反射を利用した走りの指導を徹底していると私は考えています。彼らは「黒人だから速い」ではなく、「伸張反射を利用しているから速い」のです。黒人が無条件に脚が速いのであれば、白人や黄色人種よりも脚の遅い黒人はほとんどいないということになりますが、現実は違うでしょう。つまり、アメリカやジャマイカの選手は技術が優っているから速いのです。これはアップの動作などをしっかり見れば、伸張反射を利用しようとする姿勢がよくわかります。
そんなアメリカ、ジャマイカの選手の練習をずっと見ていて感じたことがあります。
「乗り込み、腰を乗せる、ってちゃんと考えたらどうすればいいのか分かるようになるんじゃね?」
そこで今回は、私の実経験をもとにたどり着いた、「伸張反射を使うフォームのノウハウ」について詳しく説明していこうと思います。
①「乗り込み」、「腰を乗せる」、の正体は【伸張反射を利用して走る】ということ。
早速結論から言います。よく言われる「乗り込み」、「腰を乗せる」の正体は【伸張反射】と呼ばれるものです(伸張反射だけではありませんが、大半を占めています)。
要は、「もっと乗り込んで行こう」「もっと腰を乗せて腰から進んでいこう」というアドバイスは、全て「伸張反射をもっとうまく使って走っていこうね」というアドバイスに置き換えることができます。
要は「伸張反射を起こすためのフォーム」ができていれば自然と腰が乗り込み、自然と地面を押し込むことができます。
②伸張反射とは?
まずは「伸張反射」についてより詳しく解説していきます。
「伸張反射とは、脊髄反射の一つで、骨格筋が受動的に引き伸ばされると、その筋が収縮する現象。 この収縮は、筋肉の伸展によって生ずる張力を、その筋肉の中にある筋紡錘が感受しておこるものである。(日本ストレッチング協会HPより https://j-stretching.jp/what-is-stretch-reflex/)」。
難しいこと書いてありますが、簡単に言えば、
「筋肉が引き伸ばされることにより、硬いゴムチューブのように勢いよく縮む筋肉の反応」を言います。そして注目すべき点は、これが『脊髄反射』であるということです。「反射」とは神経伝達メカニズムのうちの一つで、神経が脳を経由しないことで最速で筋肉に動きを伝える働きのことを言います。つまり「考えて力を加える必要がない&最速で力を伝えることができる」ということです。
要は、筋肉が伸ばされることにより、身体の仕組みが働き、意識せずとも「ものすごいパワーを最速で引き出せる」ということです。伸張反射の特徴は、意識的に行う収縮運動よりもスピードが早いということです。そして、意識して力を加えないので無駄な力がほとんど働かず、トップスピードの維持や後半の失速低下に繋げることができます。
この伸張反射を利用することで、力まない走りができ、高い瞬発力から高いトップスピードを生み出すことができます。
そして
伸張反射を利用できる走り(フォーム)=「乗り込み/腰を乗せる」のできている走り
となります。
③どこの筋肉を伸張反射させるの?
伸張反射させるのはハム裏~お尻の筋肉
脚の引き戻し動作を行う筋肉はハムストリング(腿裏)と臀筋(お尻)です。つまり、脚の後ろ側についている筋肉になります。
これらの後ろ側にある筋肉を設置の瞬間に引き延ばすことによって伸張反射が起き、まるでムチのように脚をしなやかに振り下ろすことができます。
この時の筋肉の引き延ばしを行うために意識することは以下の3つです。
STEP1:骨盤を少しだけ前傾させる(少しだけ腰を反る)
骨盤が前傾しなければ脚の後ろの筋肉は引き伸ばされません。脚の裏を伸ばすストレッチを行うとよくわかると思いますが、骨盤を前傾させる(腰を反る)とハム、お尻の筋肉がじわーっと引き伸ばされるのが分かると思います。この筋肉が伸びる状態を作るというのが伸張反射を利用する第一歩です。
STEP2: 腰の位置を持ち上げる
次に行うのは、腰の位置を持ち上げることです。腰の位置を上げることで脚の後ろの筋肉、お尻の筋肉が引き伸ばされます。
実践してみましょう。脚を肩幅くらいまで開いたまま直立してください。次にSTEP1の通り、軽く骨盤を前傾させ(腰を反り)ます。次に骨盤の前傾(腰の反り)を意識したまましゃがんでください。しゃがんだら、体が起き上がらないようスキージャンプの姿勢をキープするようにして、腰だけをだんだんと高い位置に上げてみましょう。するとどうでしょう。腰が持ち上がるに連れて筋肉がジワーッと引き伸ばされていくと思います。この時、背伸びになりそうな感じでかかとが少し浮くくらいの場所で一番筋肉が引き伸ばされます。このポジションが伸張反射のベストポジションです。
この腰を持ち上げるどうさが、俗にいう「腰を高く保つ」というものです。接地した時もこの腰の位置を保つために持ち上げ続けます。これが腰を高くするという感覚の正体です。
また、若干のつま先設置になっていると思いますが、このつま先設置が「フォアフット走法」です。
STEP3: 膝が一番高く上がった時にSTEP1/STEP2を同時に行う。
これが最後の局面です。STEP3では「骨盤を前傾させる」「腿裏、お尻の筋肉が張るまで腰を持ち上げる」の2つを走りの中で行うタイミングについて話します。この「骨盤を前傾させる」「腿裏、お尻の筋肉が張るまで腰を持ち上げる」という動作を行うタイミングは「振り上げ脚の膝」が一番高く上がった瞬間です。この瞬間に、これら2つの動作を同時に行います。脚が空中にいてるうちに、この伸張反射ポジションを作り、設置した瞬間に力が解放される仕組みです。こうすることで設置の瞬間に力を発揮することができ、自分で押し込むよりもワンテンポ早く地面を押し込むことができます。こうすることで設置の瞬間に体が潰れず腰が乗る&無駄な力を使わずに体が弾むようにして進むことができます。
世界のトップランナーの中には、この伸張反射ポジションを作るという動きを意識して行っている選手が多数います。私はこのトップ選手たちを見ることで伸張反射ポジションを作るタイミングを学んでいきました。
以下、私が伸張反射を用いた走りの参考にしていたトップ選手、Wayde Van Niekirk(9.97)、Usain Bolt(19.19)、Andre Degras &Justin Gatlin(Relay),山縣亮太(10.00),桐生祥秀(9.87)のレースの動きです。空中で筋肉の張りを作り設置の準備をしている様子がわかると思います。
このトップレベルの選手たちが意識してこの動作を作っている様子が、空中の局面で確認できるのが分かると思います。乗り込みの上手い選手や、世界のトップレベルの選手からはこの動きをたくさん見ることができます。
④乗り込みの仕組み
ここまではアバウトに動きの感覚や方法をお伝えしてきたので、ここでは実際にこの伸張反射走りがどのような仕組みになっているのかを解説していきたいと思います。
良い例:伸張反射を利用した走り
走りの中で3つのポイントをうまく使えている例です。
骨盤前傾と持ち上げによって空中でうまく脚の後ろ側の筋肉を伸ばしそのまま設置、腰の高さを維持すればしっかりと伸張反射によって腰が進んで押し込めます。
タイミングなどすごく難しいと思うので、上の動画を繰り返し見て実践してみてください。
悪い例:怪我のリスクのある走り
これが一番危険な例です。
トップ選手が怪我をするのもこのケースだと思われます。
骨盤を前傾し、筋肉を伸ばすところまではうまくいっているが、腰の持ち上げが甘くなり腰が落ち、ブレーキがかかって怪我に繋がるケースです。
腰を持ち上げるには適度なリラックス状態が必要になります。決勝レースなどで力んで腰が落ちてしまうとこのような怪我のケースになりやすいです。必ず腰のたかさは気を使っていくようにしましょう。
悪い例:伸張反射を利用できてない走り
そもそも伸張反射を使えないため、「乗り込み/腰を乗せる」が全くできていない走りの例です。ポイントをしっかり抑えて乗り込める走りを目指しましょう。
⑤まとめ
今回は「乗り込み/腰を乗せる」について詳しく解説しました。
この伸張反射を使った走りというのを感覚、技術に落とし込むのは簡単なことではありません。今日お話ししたことを完成させるためにはさらに細かい技術の習得が必要不可欠です。
これからはこの伸張反射を利用した走りができるようになるためのドリルや練習をどんどん更新していきたいと思います。
それではまた次の記事で!
まとめ
・「乗り込み」の正体は「伸張反射」
・お尻と腿裏の筋肉を伸張反射させる
・コツ1:骨盤を軽く前傾
・コツ2:腰を高く上げる
・コツ3:空中で腿裏、お尻を伸ばす
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