1.スタミナとは? 2.「代謝経路」について理解するメリット 3.代謝経路の種類 4.各代謝経路の関係性について 5.まとめ
車は、走行をするために「ガソリン」という燃料を「エネルギー」に変換し、そのエネルギーを車輪に加えることで前に進みます。そして優れた車ほど、「ガソリン」を効率よく「エネルギー」に変換する仕組みを持っており、スピードと燃費を高いパフォーマンスで実現することができます。 陸上選手も同じです。エネルギーとスピード、パフォーマンスは切っても切れない関係にあります。よく言われますよね、「お前は走り込みをしないから後半失速するんだ!もっと走りこめ!スタミナをつけろ!!」。 多くの人が、体力をつけて後半の失速を無くしたい思いで、長い距離の走り込みを行っていると思います。短距離なら300m、中距離なら1000mや1500m、長距離なら5~10Km走などがあるでしょうか? 多くの方が走っていればスタミナがつく、と言うこのロジックに対して疑うことなく練習を行っていると思います。今回はあえて、この多くの人が疑わないロジック「走ればスタミナがつく」に対してメスを入れていきたいと思います。 そもそも「スタミナ」って何?それって走りこめば増える?そんな疑問に対して解説をしていきます。①スタミナとは?運動に必要なエネルギー源
車が走るためには「ガソリン」が必要です。では、人間が動くためには何が必要なのか?人間のエネルギー源について知っている方はいるでしょうか? 人間のエネルギー源、それはズバリ「ATP・・・アデノシン三リン酸」と呼ばれているものです。もっと詳しく説明しましょう。 人間が運動するには「筋肉」を動かす必要があります。そしてこの「筋肉」を収縮させるために必要な物質が「ATP」です。もっと詳しく言うならアデノシン三リン酸を分解するときに生じるエネルギーを使い、筋肉を動かします。 ※アデノシン三リン酸とは、アデニンとリボースからなる「アデノシン」と言う構造に「リン酸」が3つ結合しているものです。そして、このリン酸は「高エネルギーリン酸結合」と言う反応でくっついており、リン酸が結合するために高いエネルギーを持った構造ができます。この高エネルギーリン酸結合を分解することによって、エネルギーが放出され、そのエネルギーを用いて筋肉を動かします。 つまり、人間が運動をするには必ずATPが必要です。ですが、人間の体に蓄えていられるATPの量には限りがあり、すぐに消費してしまいます。そのため、人間はATPを消費しながら同時に創り出すことで運動を維持します。このATPを作り出し、消費することでエネルギーを供給する一連の仕組みを「代謝経路」と言います。 そしてこの「代謝経路」は、運動の強度や継続時間によって変化します。今回はこの代謝経路に焦点をあて、どの種目にどのような代謝経路が使われているのか?どのような仕組みでエネルギーが供給されているのか?本当に走り込みを増やせば後半の失速が無くなるのか?などについて紹介していきたいと思います。②「代謝経路」について理解するメリット
ここから代謝経路について説明をしていくのですが、その前に、この代謝経路について学ぶことが今後の陸上競技人生においてどのようなメリットがあるのかを説明します。 人間には、運動の強度や時間によって、全く異なる「代謝経路」によってエネルギーが引き出されていることが研究によってわかっています。つまり、全力で短時間の運動をする短距離やフィールド種目、そこそこ高い力で動き続ける中距離、低い出力で長期間の運動を続ける長距離、それぞれの場合で全く異なる「代謝経路」が使われいます。そしてこれらの「代謝経路」のトレーニング方法は全く別のものになります。つまり、練習の段階で、自分がどの種目で、どの「代謝経路」を高めなければならないのか?そのためにどのような練習をしなければならないのか?全て変わってきます。 この記事で「代謝経路」を理解していただくことで、今後の練習の組み立てや、効率の良いメニュー開発を行っていただくことで、競技力最大化に繋がります。③代謝経路の種類
代謝経路は以上の図のように別れています。 まず、無酸素運動系と有酸素運動系に大きく大別されます。 そして、種類は大きく分けて3つとなっています。1つ目は「ATP-CP系」、2つ目が「解糖系」、3つ目が「有酸素系」です。他にも様々な呼び方がありますが、今回はこれらの名前で統一して説明を進めたいと思います。ATP-CP系
ATP-CP系は、ATP(アデノシン三リン酸)の分解(高エネルギーリン酸結合の分解)によってエネルギーを生み出し、供給を行う代謝経路です。 いろいろ難しい伝え方になってしまいごめんなさい。要は、ATPという物質が体の中に蓄積されていて、それらを分解するときに発生するエネルギーによって体を動かす仕組みです。ATPを分解しながらエネルギーを作るので、ATPが無くなっていくにつれエネルギー供給が弱くなっていきます。そこで最近注目されているのが「クレアチン」です!クレアチン、詳しくいうと「クレアチンリン酸」は、分解されたATPを、再結合して修復する役割を持っています。ATPが復活する分、このATP-CP系という代謝経路の効果を長続きさせることができます。要は、枯渇したエネルギー源を再び作り出してくれると言うことです。 このATP-CP系は無酸素運動時の主たる供給系となります。運動直後に最もエネルギーを供給し、徐々に供給の効果を小さくしながら20~30秒付近でその効果はほとんどなくなります。短距離やフィールドの選手はこのATP-CP系によって作られ供給されるエネルギーを使って運動をします。 ATP-CP系の特徴として、①運動時間が短いほど②休憩を長くとればとるほど、エネルギー供給の貢献度が高くなる特徴があります。短い距離のインターバル走で、しっかりとしたレストを入れるとパフォーマンスが回復したり、短い距離で力を出したりできるのはこの特徴が原因です。解凍系
続いて紹介するのは解糖系です。筋肉を動かすために必要なATPですが、運動直後に発揮されるATP-CP系の代謝経路によって消費されてしまうことを先ほど説明させていただきました。体のATPがなくなってきたとき、身体の中ではこのATPを再合成しようとする動きが働きます。そのうちの一つがこの「解糖系」です。解糖系は、身体の中に蓄積された「グルコース」、つまり純粋な「糖(ブドウ糖)」を分解し、ATPを再合成する供給系です。「走る前に炭水化物をとってエネルギーを補給しましょう」とよく言われるのは、この解糖系のエネルギー供給に必要な「グルコース(糖)」を補給するためです。中・高校での理科で習った「消化酵素」の授業などで習ったのを覚えているでしょうか?炭水化物、いわゆる「デンプン」は唾液などの消化酵素によって「グルコース」に分解されます。「グルコース」は血液の中に漂うことで体の中に蓄積されます。この「グルコース」を「解糖系」と言う供給経路によってATPへと再合成、その後ATPを分解したときに発生するエネルギーで筋肉を動かすと言うメカニズムです。グルコースからATPを再合成するプロセスについてより詳しく知りたい方は、こちらのサイトを見てみてください!かなり丁寧にまとまっています!長いので本当に興味のある方だけみてみてください!笑出典: http://www2.huhs.ac.jp/~h990002t/resources/downloard/15/15biochem3/02sugarcatabolism_1_15.pdf
この解糖系は、運動開始直後15秒からエネルギー供給をはじめ、60秒ほどまで続くエネルギー供給系路です。解糖系は、ATPーPC系より長く機能する特徴があり、またグルコースの分解によって得られるエネルギーは高いエネルギーを持っているため、高い瞬発力をサポートすることも可能になります。つまり、400mや800mなど、ある程度のスピードを維持しながら、1分程度の連続運動をする競技の方は、この解糖系によって得られるエネルギーを多く使っていることになります。 そして、この解糖系によってATPを生み出すさい、その副産物として「乳酸」が出来上がります。そうです、ケツワレの原因と言われている「乳酸」はこの「解糖系」のせいで発生しているんです。なので、高負荷なショートダッシュではなく、200+100m、300m~600mなどのちょうど30~60秒かかる練習ではケツワレが起こります。
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